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徒手空拳日記

人の行く裏に道あり花の山

二つの顔をなくす薬

「文學界」六月号の平野啓一郎『ある男』は、めちゃくちゃ面白い。人間の尊厳と人格の複数性について、考えさせられる。

人間には大きく分けると四つの顔がある。

ひとつは①社会のなかでの顔。社会関係資本の礎となる顔である。その人の政治や経済の顔。それから②限られた近しい人物にだけ見せる顔がある。家族や友人に見せているプライベートな顔。そして③自分のための顔がある。世の中では独りで飯を食うことを「孤食」などと呼んで忌むけれど、私は「孤食」大好き。逆に他人と飯を食うことは穢れになる。

最後の顔は、④自分も知らない自分の顔。他人にはしかとその顔が見えているが、当の本人は知らない、気づかない顔。

小説『ある男』はある男が急死して、彼の①が全くの別人のものだったという話で、ある男の妻は、夫が死んでから②と①の分断に直面して、途方にくれる──。

アルコールを飲むと、②③の顔を失う。

酒で②③の時間が奪われて、①④以外は睡眠時間となる。

①の顔を保つ為という大義で酒はあたかも潤滑油のように言われる。或いは③の独り酒を美化して、己と向き合うための命の水のように捉える。

しかしその実は、アルコールによって、②大切な人が望んでいる顔と、③かけがえのない自己像を失う。

そして逆に、④本人も自覚しない顔を持ち始める。脳がアルコールで麻痺して、自己認識が狂い始める。④の顔が最後には①の顔も潰す。酒を飲んでクルマを運転してしまうとか、泥酔して他人を罵ってしまうとか、まさしく顔に泥を塗るようになる。

成人の日や入社式の日には①の酒を飲む「正義」が酒造屋によってこんこんと説かれる。CMを観れば②家族や友人とバッキバキに楽しくなる幸せの水として酒が売り込まれている。

酒場放浪番組やフードポルノでは、孤絶酒や逃避酒があたかも無頼でインディペンデントな大人の嗜みのように描かれる。

でも真実は、酒を飲んで失う二つの顔は人間として生きる為に不可欠の顔である。アルコールが麻薬と言われる理由はここにある。