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徒手空拳日記

持たざる移動を追い求める手ぶら評論家。 手ぶらを、いつか当たり前のウォーク・スタイルにする。 人の行く裏に道あり花の山(利久)

映画『台北ストーリー』感想

渋谷ユーロスペースで『台北ストーリー』を観た。「ユーロスペース」というひびきを耳にするだけで、全盛期の渋谷を思い出し、喪失感を覚える。

【公式】エドワード・ヤン監督作品 台北ストーリー

映画は、1985年製作のリマスタリングである。80年代半ばの爆発的経済成長にあった台北の息吹や街の美しさが、そっくりフイルムに封じ込められている。

同時に、台北の街には、工業化の絶頂にあった東京の濃い影が、ストーリーのあちこちに映り込んでいるのであった。

日本電気の電飾看板、日本で録画されたビデオテープのプロ野球中継の合間に流れる日本のテレビCM、そして台北の夜に美しく明滅するフジフイルムのネオン。

楊徳昌による意思的な構図の美しさに見とれながら、既に失われた工業化時代の日本の繁栄に、虚しさを覚える。

冷戦期のパクス・アメリカーナが行き着くところまで来ていた日本と、その玉突きですぐ後から成長する台湾が、アメリカという恒星を異なる軌道でまわる二個の惑星としてフイルムにパッケージされていて、リマスタリング技術がかなり鮮明なせいもあって、保存状態のよい原始人が目の前で解凍されて歩き出したかのような戸惑いを覚える。

誤解をおそれずに言えば「台北ストーリー」は「なんとなく、クリスタル」の台湾版である。

1945年から1991年まで存在した地政学的モラトリアムのなかで、日本も台湾もアメリカの不沈空母となる替わりに経済的繁栄を欲しいままにし、人々はカギかっこつきの「個人主義」を謳歌していた。

冷戦後期の「工業化マーケティングとしての個人主義」が、インターネットによって分解されていく過程を、いま我々は生きている。

過ぎしモラトリアムの甘さにのめり込むには、渋谷ユーロスペースほど絶好の場所はない。

不思議と後を引く映画である。

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