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徒手空拳日記

持たざる移動を追い求める手ぶら評論家。 手ぶらを、いつか当たり前のウォーク・スタイルにする。 人の行く裏に道あり花の山(利久)

別の人生

あぶく景気があったからたまたま大学にも行けたけれど、そうではない人生もあったろう。どこかで分岐した別人の己っちについて時々考える。新宿や上野あたりで、ふと彼と夜すれ違うこともあるかもしれない。

贋会社員、要するにフェイク・サラリーマンとして、のうのうと生きている現状は偶然の賜物である。己っちはいつも、別の人生を生きているもう独りの己っちのことを忌々しく、懐かしく考える。彼に話しかけることもあるが、たいてい彼は、己っちを無視する。

もうひとりの己っちは、安いアパートを家賃の滞納で追い出されて、サウナやカプセルホテルを泊まり歩く不安定な暮らしをしている。知人や友人はほとんどなくて、独り身である。

生きていることに喜びもないまんま、安い甲類の焼酎やワンカップの日本酒を飲んでいる。ビールは高くて飲めない。昼から場末の汚い店で酒を飲むこともある。洗濯もしないまんまの汚い野球帽をかぶっている。

飯は常に適当で、腹が減ったらスーパーで買って来た特売の食パンにマヨネーズを塗って食べている。

安くても腹一杯になるものばかり食べており、酒も飲むからぶくぶく太っている。健康診断などは殆ど受診しておらず、投げやりな生活を注意する者もいない。虫歯の痛みもアルコールによる酔いで感じなくしている。

テレビに向かって、ブツブツ独りごとを言う。誰も聞いていないのだが「そろそろ寝るか」と言う。気絶なのか睡眠なのかの区別はない。

翌日はアセトアルデヒドが残り、起きればひどい偏頭痛と歯痛に見舞われる。白目が黄色くなっている。

彼の名を誰も呼ばない。

去年今年因果の風は吹きにけり(車谷長吉)